camellia I

先日帰省した折に、ずっと会ってみたいと思っていた女性と、念願叶って一緒にお茶をすることになった。意外にも切り出したのは彼女の方からで、私は少し面食らいながらも、いつも画面越しに見ている淡い色をした彼女の姿を思い描き、迷わず待ち合わせの返事を送った。
彼女に教えられた県立図書館前のカフェはとても静かで、路地に面した大きな窓ガラスからは空の色がよく見えた。十五時を少し回った冬の空は既に金色に染まりかけていた。私は店の入り口近く、窓を正面に見るソファ席へ陣取ることにし、透き通る声で注文を取りに来た店主へ黒豆きなこミルクティを注文して、そっとソファへ背を預けた。
テーブルの端には、ガラス製のクリスマスツリーと、手作りと思われる絵本が積み重ねられていた。一冊を手に取り、中をめくる。品書きも手書きで味のあるエッセイ本のようだったのを思い出し、そっと店主を見やる。東洋の出で立ちをしたその横顔が少しこちらを向いたようにな気がして、咄嗟に面映くなりそっと視線をずらす。その間際に垣間見た指先のやわらかな動きから、店主がここで毎日を丁寧に生きていることが窺い知れた。
彷徨わせた視線をそっと手元の本に落とす。この本もあの指先から紡がれた物語なのだろうか。そんなことを思いながら頁を読み進めていく。何かを伝えようとするその優しい語り口に、これからやってくる彼女が深く読み入る様を勝手に思い浮かべる。私よりも若くて、それなのに私よりも大人である彼女。何かに対峙することを恐れない、真っ直ぐな子どものようなひと。
その時、手元の携帯がメッセージの着信を伝えて小さく震えた。きっと彼女からだろう。息を整えて、窓外の空を一瞥してから、メッセージを開く。

今つきましたので、入りますね

自然と口元が緩む。
この店を勧めてくれた彼女は、一体どんなひとなのだろうか。

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